「のんびり、ゆっくり、生きよう!」父の残した言葉
2007年、私の父は49歳で亡くなった。私は19歳だった。
父はその面影になるようなものをあまり残さなかった。
いっぱいそばにいたけど、たくさん話をしたけど、物として父から受け取ったものはほとんどない。
手紙でも残しておいてくれたら、一緒に写真を撮っておけば、
もっと何かを残してくれていたら、と何度思ったことだろう。
父が亡くなった時、私は東京で一人暮らしをしていた。
お盆に帰省した時に会ったのが最後で、9月20日、眠る父と再会した。
葬儀までの1週間、実家で過ごす時間は、どこか静かでゆったりとしていた。
その時、キッチンでふと目に留まったものがあった。
前に帰省した時にはなかった、手書きの張り紙だ。
それは、いつも喧嘩ばかりしていた、父が祖母に向けて書いた注意書きだったのだろう。
「他の人が買ってきたものは確認してから食べよう」
「タバコはやめましょう」
そんな実用的な内容の中、一番上に書かれていたのがこうだった。
「のんびり、ゆっくり、生きよう!」
それを見た瞬間、息が止まるような。じんと心に沁みるものを感じた。
それは紛れもなく父の字だった。
誰かに向けた言葉なのか、それとも自分自身への戒めなのか。
今となってはわからない。でも、余命が迫る中で、父がこの言葉を残したことは間違いない。
慌ただしい東京での一人暮らし、慣れない仕事、将来への不安。
そんな日々の中で、私の心は疲れ切っていた。「なぜ私はこんなに頑張っているんだろう」と思うこともしばしばあった。そんな私に優しく語りかけるように、父の言葉は響いてきた。
その日付は9月9日。父が亡くなる11日前に書いたメッセージ。
普段こんな書き置きをするような父ではなかった。
それは父が命そのものを通じて、私に送られた大切な教えだと感じた。
焦らなくてもいい。競争しなくてもいい。
ただ自分のペースで、自分の人生をしっかりと歩めばいい。
あの言葉は、ずっと私の心に残っている。
そしてこれからも、一生忘れないだろう。
人生の、生き方の道標として。
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