読書記録7「スマホの中身も「遺品」です デジタル相続入門」古田雄介 著
人生はいつ終わるかわからないものです。
もともと多分同年代の多くの人よりも死を意識しながら生きているような気もする私、いつも「今自分が死んだらどうなるのだろう」と考えます。
進行中の仕事や、過去の作品、これからやらなきゃ行けないこと、私の人間関係。フリーランスの人間は会社員のように、遺族が会社に連絡すれば仕事のことはなんとかなる、というわけではなく、とても複雑にたくさんの人間と接しているから、心配事は尽きません。
常に“もしもに備えたい”思いを感じつつ、後回しになっているのがほとんどだと思います。
そんなモヤモヤを解決したくて、最近自分の身の回り(基本的にはデジタルデータ)を、「誰が見てもわかるように」と整理始めました。
ある意味の「終活」です。
そんなタイミングで出会った本書。
そうそう、こんな本が読みたかったんだ。と思いました。
その人の情報や貴重なモノが、物理的な「物」ではなく、スマホやPCのデータになってからまだ時代は浅く、それでいて個人情報保護の観点からスマホやPCのデータを守るためのパスなどのセキュリティの強化は素晴らしいものです。しかし個人を守るためには大いに安心させてくれる機能が、その人がなくなってしまった際に、遺族がもうどうすることもできなくなってしまうという問題も起きているのが現状です。
本書では、遺族の相談事例から、現在インターネット上のサービスを行う様々な会社がどのように対応してくれて遺族は何をしたら良いのか、を具体的に各会社やサービスごとに説明されていて、普段ユーザーとして使っているだけではわからない仕組みがわかり勉強になりました。
本来インターネットのサービスの契約は「一身専属性」(契約者が亡くなった場合の遺族への引き継ぎなどはなしみたいな)が当たり前だったものの、ブログやHP、SNSなど個人の残したものを残したいという遺族が出てくるようになり、各サービスも時代に合わせて変化してきたということです。
流行りのサブスクや、不労収益をもたらすのアフィリエイト、個人が亡くなっても、放置していることで、金銭が発生する契約はたくさんあります。
家族だって個人がどんなザブスクを契約してるかなんて知る由もありませんから、放置すれば故人の口座の残高は減るばかりです。私としてはそんな場面が怖くて高額なサブスクは気が引けるのですが、いざとなったら「口座を停めてしまえば大丈夫なんだから気にすることはない」と考えている人も多いのではないでしょうか。確かにそれは事実です。
しかし、それはそれで、逆に大切なものを失う可能性もはらんでいて大変リスキーなんですよね。
例えば今は多くの人が、写真などのデータをクラウドストレージなどを利用して保管していると思います。昔はHDDなど物理的に自分で持っているストレージで保管していたデータがクラウドで保管できるようになったおかげで、いつでもどこでも引き出せて、身軽かつとても便利になりました。
その反面、クラウドへの保管は、契約が切れてしまったら、大切なデータが消えてしまう危うさがあります。
私は、すべての作品の写真や仕事のデータやプライベートの写真などの思い出を、Dropbox というクラウドストレージに預けています。まさに私の人生が詰まった大切な“全財産”です。
私の契約は、2TBのストレージが使える年間契約で、自動更新でクレジットカードから落とされます。しかし、もし契約更新ができなければ?私の全財産、作った作品たちや思い出は、この世から消えてしまうでしょう。
もし私が死んで、気の利いた遺族が真っ先に口座を止めてくれたとしたら?いざ「平石の作品で遺作展や、遺作集を作るか?」ともし考えてくれたとしても、作品のデータはもう消えて無くなってている可能性さえあります。もちろん私が保管している原画などは残っていますが、データでしかないものの方が多いから恐ろしいです。デジタルの危うさ、そして、便利さと引き換えのリスクを感じます。
実際に私は、データをクラウドだけの保管にはもしもの場合が怖いのでしていませんが、保管しているPCの本体ストレージもパスワードロックがかかっていますから、遺族がパスワードがわからなくて諦められたら終わりですね。
実際に、遺族の相談が最も多いのが、スマホやPCのパスワードがわからないためにデジタル遺品にアクセスできないという事例だと言います。しかもそれは、例えば、アップルや携帯会社にお願いすればやってくれるということはなく、パスワードを探し当てる他に解決する手段はありません。
パスワードを「数回間違えたら初期化する」という機能もあることから、遺族がスマホの中身を確認できないまま、初期化されてしまうという事例も多いようです。
遺族としては悔やんでも悔やみ切れませんね。
まぁ、故人も見られたくない秘密があり、データの抹消を望んでいるということもあり得るでしょうが、そうでなければ、大切なものを家族や友人に残せないまま死んでしまうことになり無念でなりません。
この本を読んで、スマホ一つですべて完結してしまう今の時代、デジタルを使いこなしていればいるほど、自分が死んでしまった時、遺品を残すことが難しくなるのだと痛感しました。
遺される側に「自分と同じ知識がある」とも限りません。
物理的に作品を残してきた前の時代の画家は、空襲や災害で作品を失ったということはありながらも、いくつかの作品は世に残すことができたと思いますが、現代のデジタルアーティストはもしかすると自分が死んだ時、クラウドのデータとともにこの世から消えてしまうこともあるかもしれません。
さすがにそれは嫌だなと思いつつ、今の状態じゃそうなりかねないです。
「わかりやすく遺す」というのが思ったよりも難しい時代なのだというのを感じました。
この本は2020年発行、現在の状況に沿って説明されていますので、デジタル相続問題もどんどん変化しており、数年後にはまた新たな内容に更新されていくと思います。定期的にチェックしていきたいですね。
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