読書記録14「僕たちにもうモノは必要ない」佐々木典士
2015年に発行された本書は、図書館の本棚で結構なくたびれようだった。
きっとたくさんの人の手を渡ってきたのだろうというのが感じられた。
「ミニマリスト」という言葉が流行り出してもう結構経つ。
やましたひでこさんの「断捨離」やこんまりさんの「ときめく片付け」が流行ってからはもう10年とか経つ。
片付けの大切さや少ないモノで生きる。
その意識が幸せに生きることにつながるという教えはかなり浸透してきたと思うけど、いまだに「捨てる」ということへの抵抗から、これらの考え方が受け入れがたいという人はたくさんいる気がする。
「モノを持つ」「モノを持たない」どちらがいい、というわけではないのだ。自分が幸せで心地よく生きるために、自分にあったバランスで生きましょうということが最も大切なことだ。
私の周りにはミニマリストもマキシマリストも何人もいるが、意識して「その」生き方をしている人は皆幸せそうだ。
私はどうだろう。
もともとはこの本の著者と同じように、幸せになるためにものをため込んでいたと思う。
もったいない精神を拗らせたような家庭に育って、両親譲りのコレクター気質、ストレス発散の意味でも買い物が大好きだった。
10代の頃は部屋が散らかっていることがコンプレックスだったけど、その後、自分の散らかった部屋が可愛く見えるくらいに持ち物が多い男性と出会って、ちょっと安心して、一緒に暮らし始めてからの20代前半はさらにものが増えていった。
今振り返れば、モノを持つことがステータスだと感じていたんだと思う。
いや、ステータスなんて前向きな感覚じゃなくて、ないと不安だったという方が正しいかな。
自分自身に価値がないのが分かっているから、付加価値を求めて買い物をしていたんだと思う。
「自分の価値は、自分の持っているモノの合計ではない。」
「われわれは幸福になるためよりも、幸福だと人に思わせるため四苦八苦している。ーラ・ロシュフコー」
本書には、心に訴えかけてくる言葉がたくさんあった。
いちいち付箋を貼っていたら付箋だらけで大変なことになった。
私も出版でお世話になったことのある出版社「ワニブックスさんの編集者の方の初著書」ということも読んでみたきっかけだったけど、さすが文章の上手い人の文は読んでいて面白いし気持ちがいい。
ミニマリストの本ということで、実践的な片付けとか自身の生活の変化などの経験談がメインかと思ったら、人間の本質に迫るような哲学的な内容で、とても深く考えさせられた。
ミニマリズムも時代とともに変化すると思う。
2015年の出版は少し古い感覚があるかなと思ったけれど、この本で語られていることは時代性は関係ないと感じた。
2015年を思い返すと、自分がまだ一人前になれず絵で稼ぐこともできず悩みもがいていた時期で、背伸びをするのに必死だった。
周りに馬鹿にされたくなくて、それこそたくさんのモノで自分を守ろうとしていたと思う。
今はもし、家中のものがある日突然なくなってしまっても、自分の体さえ無事ならば、何も問題なくまたやり直せると分かっている。
自分の「知識」「スキル」「人脈」大切なものは物体ではなくこの体の中にあると思っているからだ。
2015年、あの時この本に出会っていても、こんなに心に響かなかったかもしれない。
そう思うと、人は出会う時に出会うべき本を手に取るのだなと感じてしまった。
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